九州朝陽会会長 石井幸孝著
「戦中・戦後の鉄道」
(JTBパブリッシング 2300円)
むかし、いくさ、ありき。「海行かば水漬くかばね、山行かば草むすかばね」となりて
散華せるもののふ、いと多し。大八洲を守れる民も、飛来せる米機の焼夷弾のいけにえと
なりし者もありて、焼土には屍累々たり。頼みにしつる「神風」は吹かず。果ては、原子の力
によりて、大日本帝国は敗れたり・・・・・・・・・・・。
国破れて山河在り。されど山河のみならず、日本の汽車たちはたくましく動いていた。
「必勝」を信じてしたたかに生きた汽車も、かなり傷ついた列車も、一所懸命に走った。
そのような戦中・戦後の日本の鉄道にスポットをあてて書き下ろした書物ーーーそれが石井
幸孝さん(3回)のこの一冊である。
大伴家持「海行かば」の詞に信時潔が曲をつけて歌われ始めたのが、昭和12年。その
年の7月に日中戦争が勃発し、戦時体制へと移行し始めた。その昭和12年から、太平洋
戦争開始(昭16)、そして敗戦(昭20)、さらにサンフランシスコ講和条約締結(昭26)に至る
までの、まさに「激動の十五年間のドラマ」が、この中に詳細に描かれる。
ある時は元気よく、ある時は喘ぎながら、そして傷ついても健気に鉄路の上を走り続けた
汽車たちーーーその姿を数多くの資料で再現しながら、適切な解説がほどこされる。そして
また、おぞましき時代を示す写真も多々あって、あの時代を追憶するよすがともなるのが、
本書だ。
著者は、国鉄時代はディーゼル車開発の技師として活躍、要職を多く歴任されて九州総
局長となり、民営化後はJR九州の初代社長となって、JR九州のイメージアップや、九州新幹
線の建設にも多大なる貢献をされた方。鉄チャン向けの著作も多いが、この一冊は、あの激
動の時代に思いをはせる方々を、「ウム、ナルホド!」と言わしめる好著である。
一読をおすすめする。
朝陽同窓会顧問 佐藤喜一(1回・旧師)