福音館書店発行 2014.1.1

月刊予約絵本「こどものとも」694号 410円

『カタッポ』 文・大原悦子、絵・山村浩二


  福音館は長年にわたって良質な児童書を提供している。この書店が創立60年を記念して、「絵本にしたいお話」の原稿を募集したところ、29回生(昭52卒)の大原悦子さんの文章が採用になった。それがこの『ガタッポ』である。

  カタッポとは手袋の片っぽ。持ち主に一つだけ落とされて、駅の「おとしものばこ」に入れられた大きさも色も異なる5人(?)の片っぽたちが、そろそろ焼却処分になりそうだという情報をキャッチ、それならここから脱出して自分たちの持ち主を探そうと、街に飛び出す。そしてそれぞれが消滅することなく自分の居所を確保する・・・・というお話。

  山村浩二さんの絵とともに人間のあり様をふっと考えさせてくれる。 文の作者は津田塾大学を卒業して朝日新聞に入社。学芸部の記者などを経て2000年にフリーランスに。現在津田塾大学ライティングセンター特任教授。『ローマの平日・イタリアの休日』といったエッセイ集をはじめ、著書、訳書あり。『朝陽』(2012、61号)には、「卒業35年に寄せて」という一文を寄稿された。

  著者は「ビギナーズ・ラック」などと言いつつも、文中の赤いカタッポさんに「あきらめちゃだめ。ゆっくりでもいいから、まえにすすむの」と語らせる。

  年末年始のつれづれなるひととき、なにかしら考えさせてくれる好著だ。

<佐藤喜一> 1回 旧国語科教師