朝日新聞掲載の「青春スクロール」都立新宿高校 第7回記事についての、阿部浩一さん(38)のコメント

 以下の阿部さんのコメントは、紙に印刷頒布されております、朝日新聞の記事についてのものです。申し訳ありませんが、その記事(紙面)自体は、著作権の関係でHPには掲載しておりません。


 『朝日新聞』東京版「青春スクロール 都立新宿高校⑦」掲載の記事に寄せて

阿部浩一(1986年3月卒業、新38回生D組)

 2024年5月24日(金)、3名の先輩方とともに、小生への取材記事が掲載されました。4月から始まった連載記事を楽しみにされ、ご覧になられた同窓の皆様も多いと思います。かくいう小生も同様に楽しみにしておりました。
 ところが、いざ掲載された記事を読むと、こちらの話したことが正確に書かれていないだけでなく、文章として何を言いたいのか、取材に答えた本人にすらわからないものでした。それは単なる小生の読解力不足というわけではなく、親類縁者や周囲の知人たち、大学のゼミの学生たちも一様に同じ感想でした。
 お読みになられた皆様はどうお感じになられたでしょうか。

 このような意味の伝わらない記事が流布されたままでいるのは甚だ心外ですが、何より同窓の皆様に疑念やご不快の念を与えたのではないかと危惧します。
 ここは失礼のないよう、真意をお伝えしたいと思い、同窓会にお願いして、ホームページをお借りして拙文を掲載させていただきました。
 意を尽くさんとしたため、長文になってしまったことをお詫びいたします。
 なお、SNS等での拡散は本意ではありませんので、この場でご覧いただくだけにとどめていただきますよう、ご理解を賜れますと幸いです。

記事をお読みになられていない方に、簡単にご説明しておきます。

 第7回は「人工知能やエネルギーなど、第一線の研究分野で活躍する研究者も多く輩出する」との前置きで、3名の理系研究者・起業家の先輩方と小生が紹介されています。
 小生に関しては、高校では地理歴史研究部で活動したこと、大学選びでポイントになったのは「いかに新宿高校がすごいか、という教師たちの言葉」であり、他校から赴任した教師たちが口にする「伝統の重み」を聞いて、自分も伝統を支えなければと「勘違い」したこと、今は東日本大震災で被災した歴史資料の保全活動に取り組んでいると紹介されました。

 まず「人工知能やエネルギー」分野でご活躍される3人の先輩方の前に、なぜ歴史学の小生が紹介されるのか、という唐突感、脈絡のなさに違和感を覚えます。
 これではまるで、取材したけれど他に入れる場所がないから、とりあえず載せておいたというやっつけ仕事をされたようにしか見えません(結果的にはその通りだったようです)。

 次に、大学選びでポイントになった新宿高校の「すごい」ところは何なのか、具体的説明がありません。「伝統の重み」も何なのか、それをどう「勘違い」したのか、どこの大学に進んで今にどうつながっているのか、これでは全く伝わりません。

 全体として、最初の高校時代の地歴部の経験が最後の研究・社会貢献につながることは何となくわかるとしても、その間の大学選び云々のところが前後とつながらないため、何を伝えたいのかが全くわかりません。これでは、取材に答えた小生の説明が下手だと捉えられても仕方ありません。

 前置きとの脈絡のなさ、文章全体のつながりの悪さはさておき、最もよく意味がわからないのは真ん中の「大学選び」以下の部分でしょう。

 同窓の皆様であればお察しいただけるかもしれませんが、「伝統」とは、かつて都立高校全盛期に全国有数の東大合格者数を出していたことを指しています。
 小生の入学した1984年頃は、残念ながらかつての面影はなく、東大合格者は毎年数名いるかどうかという時代でした。小生などは特に意識することなく、「普通の都立の進学校」に入学したつもりでいました。
それが入学後、諸先生方や諸先輩方の言葉の端々から新宿高校の輝かしい歴史を知り、伝統校に進学できたことを誇りに思うようになり、その歴史と伝統にプライドを育まれる中で、自分の実力を顧みずに「東大を受験しよう、あこがれの先生のもとで日本史を学びたい」という気持ちに変わったことを卑下して「勘違い」したと表現したわけです。

 このことは、在学生向けの「新宿通信」67号や創立100年記念誌に拙文を掲載する機会をいただいた中で触れたことでもあります。
 つまり、これらをたまたまでもご覧いただいた方であればまだしも、一般の読者には何を言っているのかわからないのが、先の取材記事だということになります。

 ついでながら言えば、「伝統の重み」は、その時代を本校で経験した者にしか語れないと思います。
 ここは同窓会の場なのでお名前を出させていただきますが、今でも強く印象に残っているのは、2年生の時に数学の谷信一郎先生が「新宿はすごいんだぞ、昔は100人も東大に入ったんだぞ。」とよくおっしゃっていたことでした。
 谷先生は他校のご出身で、その目から見た新宿の輝かしい歴史と実績を語ることで、さりげなく学生たちを鼓舞してくださったのだと思います。でも、それは新宿の栄光の歴史を語るものであっても、「伝統の重み」を口にしたものではありません。そして「伝統の重み」を感じるのはわれわれ後輩たちです。今回の記事においては、そこが誤解されているように思えてなりません。

 新聞記事はきわめて字数が限られていることは承知していますし、記者が書きたいことが大前提で、取材内容はその構想に合うものを取捨選択するものでしかなく、必ずしもこちらの意図をそのまま伝えてくれるものでないことは、何度も経験してわかっているつもりです。それでも、もっと他の取り上げ方、記事の構成の工夫があったのではないでしょうか。
 新宿卒業生として取材してもらえたことを光栄に受け止め、楽しく取材を受けた結果がこのようなものになってしまったことは、たいへん残念で落胆しております。
 何より、各界でご活躍の同窓の皆様に、せっかく取材対象に選ばれながら、このようなかたちでしか母校への思いを伝えられなかったことを心苦しく思っています。

 長くなりましたが、どうぞご理解を賜れますと幸いです。
 今後とも同窓生の一人として、末永くよろしくお願い申し上げます。

追伸:その後、web記事が配信された折に、高校時代のエピソードが加筆され、紙面には載らなかった写真のキャプションと併せ読むことで、ようやく意味が通じる文章になりました。最初から紙面でこのように紹介してもらえていればと、残念でなりません。